祖父は、酒に酔うと暴れ、祖母を殴り、家中の窓ガラスを割り、大声で色んな人たちを罵倒しました。
暴れ出すと手がつけられなくなり、私たち家族は震えるしかありませんでした。
そして祖父に殴られないようにするしかありませんでした。
祖父は、若い頃から酒乱で、祖母や父、叔母を酔って殴っていたようでした。
祖母は酷いストレスから30代で歯を全て抜き、総入れ歯になりました。父は心を閉ざし、叔母は自分を極端に嫌う人になりました。
祖父が酒乱になった原因は、幼い頃の生い立ちにありました。
祖父の生い立ち
祖父は、大正7年に私の実家の長男として生まれました。
その2年後、弟が誕生するのですが、弟が生まれるとすぐくらいに祖父の母親は家を出て実家に帰ってしまいました。
なぜ祖父の母親が実家に帰ったのかは、祖父の祖母に当たる人(お姑さん)が嫁いびりをしたせいだと私の祖母より聞かされました。
その後その母親は別の人と再婚。祖父とその弟は実の母親とは二度と会うことがありませんでした。
それから数年して、祖父の父親が亡くなります。
祖父とその弟は両親と早いうちに生き別れになってしまったのでした。
それで祖父と弟は祖母に当たる人に育てられました。
祖父の祖母に当たる人は、祖父を弟よりもひいきにして可愛がって育てたようです。
尋常小学校卒
祖父は勉強が好きで小学校卒業後、上の学校に行きたかったようです。しかし家にお金がなかったために断念。
その後実家で百姓をしながら生活をして、23歳くらいで私の祖母に当たる人と結婚しました。
結婚してすぐ、祖父と弟は太平洋戦争に駆り出されました。
祖父が戦争に行っている間に父が生まれました。
戦争から帰ってきた祖父
幸い祖父とその弟は戦場から生きて帰ってきました。
しかし、戦争から帰ってきた祖父は、百姓仕事もあまりせず、昼間から酒を飲み、暴れていたようでした。
そして、自分を大事に育ててくれた祖父の祖母に当たる人も酒を飲んでは殴り飛ばしていたようです。
祖父は他人との付き合いをほとんどせず、家からほとんど外に出ませんでした。
私の父は酒を飲むと暴れ出す祖父に育てられたため、恐怖に対しては非常に敏感でした。
そしてどもりが酷く、人を疑う人間になってしまいました。
祖父は自分の心の状態を一番どうにかしたかった
祖父は、酒乱でどうしようもない人でしたが自分の心の状態をどうにかしたいと思っていたようでした。
なぜなら、祖父は古くからあるお寺や仏教を敬い、自らもお経を読み、年末は有名なお寺に修行に行っていました。
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「だいほう林」という仏教系の雑誌を定期購読し、熱心に読んでいました。
母はそんな祖父の姿を見て、「なぜおじいさんはあんなに宗教に熱心なのに、酒を飲んで暴れるんだろうね?」と言っていました。
祖父の暴力のが終わり
祖父は還暦を過ぎても酒に酔うと暴力をふるい、家中を恐怖のどん底に突き落としていました。
祖父の止まない暴力に、周りからは祖父に精神科通いもすすめましたが祖父は「自分は正常だ」と逆に怒り出しました。
しかし、祖父が75歳くらいの時。お風呂からあがると突然倒れ、その後、命は取り留めたものの、身体半分が麻痺し、ボケも入ってしまいました。
それから祖父は暴れることができなくなりました。
家族もこれまで祖父の暴力に悩まされていましたから、弱弱しくなった祖父の姿が、なんだかとても信じられない感じでした。
その2年後くらいに、祖父は静かに息を引き取ったのでした。
祖父と似た人
私が家を出てから、私と同じような環境で育った人と3人くらい出会いました。
やはり、彼らの家の「おじいさん」は、かなりやっかいな人で、酒を飲まないといい人なのだけど、酒に酔うと暴れ出すと言っていました。
そしてその「おじいさん」は、やはり家から一歩も外に出ないと言っていました。
これらの酒乱の「おじいさん」に共通するのが皆、「戦争から帰ってきてからそうなった」というものでした。
過酷な戦場で、下っ端として上司の軍人たちから有無をいわさず暴力で押さえつけられ、更に戦争で命がけで戦い、精神的にどこかおかしくなったのでしょう。
祖父は戦場での恐怖と傷を、戦争が終わって実家に戻ってからも再現していたのでした。
戦争に行っも何も変わらない人もいる
戦争から帰ってきても、平和に暮らしている人たちもたくさんいます。
私の祖父の弟は祖父とは真逆の性格。戦争から帰ってきても怒り出したりしませんでした。とても優しい人でした。
だから、必ずしも戦争のせいで祖父は酒乱になったとは言い切れませ。
しかし同じ経験や体験をしても、反応が人それぞれ違うように、戦争という経験をして、それが酒乱や暴力に繋がったという人も少なからずいると思います。
うちの祖父の他にも同じような人が3人いたというのは、事実です。
実家は戦場だった
私の実家は機能不全でした。そしてその機能不全の元凶である祖父は戦争が原因で精神を病み、家中で暴れ出す状態でした。
祖父は亡くなるまで心の中は戦争の恐怖と傷でボロボロだったのでしょう。
そして、祖父が亡くなるまで私の実家は戦場でした。
戦いが終わった後も、残された家族は傷付け合い、心を閉ざし、生き苦しさにもだえながらも生きているのでした。
(続く)
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